第44話   庄内竿の古竿 その2        平成28年01月15日  

 古めかしい漆を塗ったような竿が何で良いのか?
 その理由は、いくつか考えられる。煙で真っ茶色になるまで燻すので、煙のヤニが竹の中にまで入って行き虫が付かないこと、またヤニの油が竹を丈夫にするとも考えられる。こまめに毎年の手入れをきちんとやっておく人が多かった。そんな訳で百年も実用に出来る竿が有った。そんな事など日本中探してもここ庄内にしかないと云われている。また、真っ茶色の漆を塗ったような感じは、釣竿に気品を与えてくれている。
 文豪井伏鱒二は、漆を塗ったような感じについて最大の賛辞を贈ってくれた。「庄内竿」の中で「色づけは、年月をかけて竃の烟でくすべるのだから、庄内竿は焦茶色になつてゐる。竹の肌と竃の烟。この二つが程よく合致融合することは、殆ど民族的に我々の認識してゐるところである。この焦茶色の細くさらりと伸びた釣竿は、岩礁に砕ける白い波にも映りがいい筈である。谷川の青い淵にも映りが悪くないと思ふ。」と語る。
 昔の武士たちは、「何で煙で燻したのだろうか?」と考えて見た。釣竿に気品を与える為に、漆を塗った様な感じを出す事を優先したのだろうか?それが、結果釣竿を長く使える事にがったのだろうか? すべては謎である。
 昭和30年代の頃、釣竿を古めかしく見せる為に、表皮に酸を塗ることが流行った事があった。するとその竿は、全て数年で廢竿となってしまった。簡単に科学的に釣竿を古めかしく見せる事は、結果的に良くない事の一例である。やはり時代を経た物には、経年変化により徐々に良さが滲み出て来るものだ。そんな竿には、自然にそこはかとない価値が滲み出て来ると云うものだ。
 庄内の標準竿を作るエ程について、「てぶくろ」といふ雑誌に祐介さんの語った談話筆記が載ってゐる。


 「九月末から十一月までに竹を切りに行きます。―それのフシを取去って、青みの取れるまで室内で干し、それから天日に干して最初の一とのしをする。これが初等教育みたいなもので悪い癖が出るか出ないかの分れ目です。それを煤棚にあげて煙をかけながら、第二回目ののしをやる。このときは、よくよく癖の悪いものでない限り比較的かるく手をかける。竹質をしまらせるくらゐでいい。翌年の亦、煤を落し、そう今一度のして外気にさらしながら、年に一度づつのして四年目に漸く使へるやうになる。よい竹を見っけると、どうしても早く使ってみたくなる。さういふ場合、速成料といって、毎日、陽にあてては煤をかけ、四年分を半年で仕上げる場合もある。しかし、竿の本調子が出るのは五年から二十年まで。その期間が謂わば竿の成年期で、後は手入れ次第です